み(仮)

the best is the enemy of the good

『空想ライトノベル読本』

 「空想科学シリーズ」の最新作なのだが、このシリーズも長くなるにつれて著者が変わったり、作品への切り取り方も変わっている。科学により切り取りを行うのは「科学」の語がついていない本作でも変わっていないのだが、一昔前の科学的にみておかしいというような雰囲気からは変わってきているように思う。いや、科学的にみておかしいとはいうのだが、あくまで柔軟に解釈をしており、ライトノベルを忠実になぞっているように感じられた。

 


 僕がこの「空想科学シリーズ」にはじめて触れたのは10年くらい前になるが、それは『空想法律読本』だったと思う。ともかく読んでおもしろいと思ったので、当時友人だった人に貸したのだが、「夢を壊す」といわれたことがある。たしかに対象になっていたアニメや特撮番組は科学的にみておかしいのは明白で、視聴者はそれがわかって観ているのだから科学的に「おかしい」と言われれば立つ瀬がないだろう。それからもう一作読んでみたが、その友人の言葉もあって僕はこのシリーズから離れていった。今回読んでみる気になったのは、ある程度科学の知識も身についていたし、以前読んだものが科学的に否定できそうだったからという理由もあり、何よりライトノベルのことが少しは判るだろうか、と思ったのもある。僕が読んだことのない作品で、興味の湧くものが見つかるかもしれない。あとは表紙デザインが緒方剛志だったということもあろうか。幅広い仕事をされている方である。

 


 だが時間もたち、つまらなさの方が勝った。テーマ毎に章立てされているのだが、それぞれ「魔法」、「ロボット」、「時間」、「宇宙」、「異界」とあり、特に「魔法」は関心のあるテーマなので作品を知る上では参考になったが、「宇宙」以降は可能性から見れば何でもありで、もはや科学ではない。ライトノベルでの宇宙人や異世界人の分類、異界の分類も参考になるといえばなるが、そもそも扱っている作品が少なすぎるゆえに説得力に欠ける。あとがきの方で約300冊のライトノベルを扱ったという記述があるのだが、300タイトルではない。タイトルで捉えれば非常に偏っており、著者の個人的興味で選んだようにも思われる。実際に、コラムや後半の文章はほとんどライトノベル感想文のようで、面白みがない。感想ならAmazonの書評で十分であろう。批判があれば別だが、ほとんど賞賛に終わっている。

 


 長所と言えなくもないが、あるとすればマイナーな作品を扱っていることだろうか。ただし、所詮は「科学」からの切り取り方なので、文学的な作品はあまりない。僕はSFテイストの作品も好きだが、それよりも文学的な作品の方が好きなので、物足りなさを感じた。

 


(参照)


『空想ライトノベル読本』(福江純2010年、空想科学文庫)