み(仮)

the best is the enemy of the good

『被差別部落一千年史』


 中上健次関連で衝動買いしておいたのを、何とか読んだ。1920年代に書かれたもので、何ともまあ読みにくい。漢語や文語が頻出するのもそうだが、水平社設立後の社会主義的な言説の影響化にあって書かれているので、そのような表現が多い。社会主義的なものは正直よくわからないので流し読みしたが、言わんとすることはなんとなく理解できただろうか。マルクスの基礎知識があったので助かったが、スターリンについてなどわからないものが多い。


 


 著者は「特殊部落」の中の無産階級を、他の無産階級と団結して運動を進めていけば「特殊部落」を救うことになる(大意)などと書いているが、これを20年代に書いたのはすごい。その前に根底となる別の思想があったのは確かなのだろうが、それを自分のものにするのはなかなか容易なことではあるまい。経済への言質も現代から見れば的外れに思うかもしれないが、当時まだ先行きが不透明であったことを考えると、よく先のことを考えているなと思わせられる。ただ、「特殊部落」が伝統的に引き継いでいた職業がそのままの勢いで残っているわけではなく、それを彼らの経済基盤とすることは難しいだろうが、いまやアイデンティティの問題となっている。「特殊部落」も資本主義社会に吸収されてしまったということなのだが、差別が見えにくくなり、往時の差別観ゆえにある仕事に就けなくなった、というのは聞かない。ただ「特殊部落」への差別が見えにくくなったと言って、歴史を知らない人が多いというのはどうだろうと思った。人権運動をする前に、被差別部落問題や同和問題を知っている人がどれだけいるだろうか。むろん、僕もその知らない人間の中に含まれるのだが。

 


 あとは、労働をすることで「特殊部落」を救うことになるという論点には驚かされた。他にもいくつか感心したのだが、これを19歳の若さで書き上げたのには舌を巻く。さらに若さゆえの情熱があって、読む内に次第に引き込まれていく感覚を味わう。被差別部落のみならず、ある思想を考えるうえでもこの本は影響を受けることであろう。