み(仮)

the best is the enemy of the good

「School Days」 アニメ版

 見ていて愉快なものでは決してなかった。それでもまだ前半はよかったが、後半は桂言葉がただ惨めである。主人公の伊藤誠の女性遍歴をたどってみると、はじめに桂言葉西園寺世界桂言葉となるのだが、その間、肉体関係だけで言えば加藤乙女清浦刹那黒田光などと多く関係を持つ。これだけでも愉快ではないのだが、僕がこの作品で不快だと思ったのは、次の3点に要約できるのではないか。

 


 ・誠の女性に対する考え


 ・高校内の異性交友における倫理観の浅はかさ


 ・同性同士のグループ化


 


以下、断片的ではあるが、順次述べていくこととする。


 


1)誠の女性に対する考え


 先日「Summer Days」のコミック版が発売された。その帯には「伊藤誠が帰ってきた。」とあり、「伊藤誠」のルビとして「最低野郎」と振ってあったのを見た。つまり、伊藤誠=最低野郎なのだが、何が最低なのかというと、大多数の人が感じるように誠の女性に対する考えのなさが、一般倫理として最低なのだということなのだろう。

 


 冒頭で述べたように誠の女性遍歴は短期間に多く、しかも相手の女性ときちんと別れないまま女性関係をもっている。このことは何も誠だけ責められるべきではないが、それにしても誠が反省もしないまま、さながら欲望のごとく女性を代えていく姿はやはり最低と評されるに値するだろう。

 


 誠は作中、特に後半、世界に言葉と付き合っていることが「めんどくさい」と思っていることを告白するようになってから、しばしばこの「めんどくさい」というのだが、このことも誠を低劣な存在に仕立てている。また、世界から言葉と付き合っているのだからと関係を断られるにも拘わらず、執拗に迫る。めんどくさいなら女性関係を持つなよ、と言いたいところだが、誠の視線は唇、胸、太もも、尻などにいっているので、誠は性交渉だけできればいいらしい。高校を舞台にしているからか、風俗店に行くとか、売春目当ての女性だけ狙うといったこともないので、作中では高校生とだけ関係を持っている。

 


 作中は反省するシーンも見られるのだが、それにも況して情欲や状況に流されやすく、倫理観もなく、判断力にも乏しい。そのうえ鈍感で、相手の身になって考えるといったことをほぼまったくしていないため、何が女性に好かれるのか理解できないが、回想シーンで世界が刹那に「評判もいいみたい」といっているし、加藤も中学生時の伊藤に惚れたと見られるので、表面的なところの受けがよかったのだろう。ただし何分女性とまともにつきあったことがないようなので、それが今回浮き彫りにされ、かような結末に陥ったと考えられる。

 


2)高校内の異性交友における倫理観の浅はかさ


 誠が不道徳な女性関係を持っているにも拘らず、なぜか周囲における反応は薄い。高校生ゆえの性倫理の浅さだろうと見受けられるのだが、端的に加藤を取り巻く三人組が誠の部屋を訪れるシーンに、それは表れている。また、学園祭で「女子だけの伝統」と称し、お化け屋敷の中に密かにベッドを設け、高校生カップルの性交渉の場としているのだが、それも誰も先生などに告げ口しない。

 


 誠が世界と言葉に二股かけているにも拘わらず、刹那も誠や世界にその倫理観の無さを責めたりしない。これは次項で述べる同性間のグループ化があるのではないかと思うのだが、それにくわえて作中で女性が男性に対し、本気で責めたりするシーンがあまり見られない。まあ、本気で責めたりすれば性交渉にも到らないはずなので、退廃感を出すために致し方なかったのだと思いたいが、この点は今作が美少女ゲームゆえの倫理観から抜け出していないと感じられる点である。そこには男性本位な考え方が根付いているのではないか。

 


 さらに言えば、作中には親や教師があまり目に見える形では存在しない。唯一、言葉の母親が声だけ登場するか、前半の誠と世界のノートでのやりとりに教師が見える形で登場するだけである。それを見る限り、教師が頼りない存在には見えないのだが、当然のように肉体関係を構築し、破壊を繰り返す高校生が大人に相談する、という構図も見られない。誠や世界の家の内部が紹介されるのだが、世界に親がいるのはわかるけれども、誠は当然のように一人暮らしのように見える。

 


3)同性同士のグループ化


 現実的に考えてみれば、言葉と誠がまだ別れていない状態では浮気をする誠や世界に理はない。だから、二股が発覚した場合には当然誠や世界が詰られるべきである。それが高校生の場合だとしても、男女間の掟は守られるべきであろう。だが、作中ではなぜか言葉だけが非難の的にされ、世界たちを祝福する声が上がる。言葉は非難されるばかりか、学園祭の実行委員会を一人でやらされるなど、不遇な状況が多い。それは言葉を悲劇的な存在に仕立て上げることに一役買っているのだが、なぜこの不遇な状況が起きているのかと問われるならば、同性同士のグループ化が起きているのではないか、と考えられる。

 


 まず、誠と世界の浮気を知ったのは刹那が最初だが、世界からは誠は言葉と別れたと伝えられる。だからこの時点では何も知らないのだから、刹那が誤解していたとしても、一応は納得できる。しかし、誠が実は言葉ときちんと別れていないことを知った後でも、刹那は世界と誠をくっつけたままにしようと努力する。事情は刹那がフランスに転校することになっており、それゆえに世界のことが不安で、何とか世界の恋愛を見届けたいという思いがある。だが、これは倫理に適ったものではない。冷静な刹那のことだから、世界と誠、言葉をきちんと交えて今後のことをきちんと話し合い、改善する方向に導いても良さそうなものである。それに、世界や誠が嘘をついていることぐらい見抜けていても不思議ではない。刹那もまた誠に恋愛感情を抱いているのだから、世界に想いを託したのだ、ということも考えられるが、それにしても非倫理的な行動を刹那は取る。ここに世界と刹那の超倫理的なグループが想定される。

 


 また、ほかのクラスメートにしても、二人の説明を安易に信じるがあまり、言葉を責め立てる。言葉が、自分は誠の彼女だと言っても聞く耳を持たないし、甘露寺七海は誠の友人である澤永泰介にまで攻め寄ったと言いがかりをつける。これは高校生ゆえの浅はかさとも考えられるのだが、どちらにしても誠に説明を求めていない点では女子グループ内で決着をつけようとする意思が見受けられる。澤永は光の意中の人だ、ということを考えると七海は光の同一グループに属していると考えられるが、七海はまた、誠に近づくなと詰っているので、二人は世界のグループであり、総じて同一クラス内の女子4名が大きな同一グループに属していると考える。これも超倫理的なグループであり、異なるグループである言葉や男子に説明をきちんと求めていない。

 


 言葉のクラスにしても同じことが言える。彼女は友達がいないばかりか、加藤を中心とする4人組のグループから虐められるが、これもグループ(?)間の軋轢が原因としては明らかである。虐めの根拠は個人の人格の嫌悪から、誠が好きである言葉と乙女との溝であろう。乙女や        光が誠の最低さに気づき、我に返ったあとで言葉を労わることをしないのも、グループが違うということと、世界が妊娠したあとで人目に付きたくないのだと考えられる。後者に到っては作中で言及がなされたが、前者にしても言えると思う。

 


 


以上、簡単に作中の出来事を踏まえて不快感の原因解明を試みたが、前提として注意しておかなければならないのは、今作が原作であるOverflow制作のPCR-18指定ソフト「School Days」とは内容を異にするということである。僕は原作をプレイしたことがないので詳しいことは判らないが、何でもエンディングは多岐に渡る、という話であるらしい(Wikipedia School Days」)。今回取り上げたのはアニメという、ひとつの解釈内での解釈なので、今までに述べたことは原作ではまったく的を射ていない、ということも考えられる。特に誠の最低さを中心に展開した論立ては、アニメだけに通用する解釈である可能性が高い。というのも、Wikipediaの情報によるものになるのだが、アニメ版ではあえて誠を最低に仕立て上げたと制作側が言っているらしい。「Summer Days」のコミック版の帯にしても、アニメでの評価を受けてそのような惹句にしたとも大いに考えられる。

 


だがどちらにせよ、この「School Days」という作品が今までその作品の質を高く評価されてきたのには、旧来の美少女ゲーム的ご都合主義から一つ道を外した作品だからではないか、とも考えられるのである。その根拠を僕が今まで述べたようなものであれば、解釈としてではあるが、一応の理解ができるのではないかとも思うのである。

 


最後に。だから、悲劇の始まりは二人の女性が同じ男性を好きになった、ということに求められるのではなく、あくまで学生間の非倫理的な思考・ふるまいに求められる。そして、改善に向けて前進することをせず、したとしても同一グループ内での改善を試み、大人や法に頼ることもない。このことが更に悲劇を加速していくことになったのだが、これはある種の美少女ゲーム批判、あるいは恋愛批判とも取れなくはない。

 


 


(参考)


Wikipedia School Days

http://ja.wikipedia.org/wiki/School_Days

 


School Days」アニメ版公式サイト キャラクターのページ

http://www.schooldays-anime.com/character/index.html

登場キャラクター名の正誤が不明であったため、参考にした