み(仮)

the best is the enemy of the good

「裸の島」

裸の島
監督:新藤兼人, 脚本:同左, 出演:乙羽信子, 殿山泰司, 田中伸二, 塚本正紀
製作:近代映画協会, 1960年, 日本.


セリフ無しの映画として有名なもので, 尾道の映画館で名前だけは知っていたのだが, これまで観る機会がなかった.

舞台は瀬戸内海に存在する孤島とあるが, 劇中に尾道行きの船が, 孤島近くの島から出ていることから, 尾道寄りの島だとわかる. 60年代にこのような光景が日本でも見られたのかと思わせられる作品であり, おそらく当時の尾道を撮影した映像が見られることからも, 史料的価値は高いと思われる.

ただ内容は, 面白いかと言われれば微妙なところ. 主人公たち夫婦は農作業をして生計を立てている. 島では真水が得られないので, 島に植えている芋(?)に水を与えるためにも夫婦は揃って, 近くの島へ水を汲みに行く. この辺りで既にくさいと思わせられる. 子供が釣った魚でカネを稼ぎ, 食堂で飯を食う場面も, 貧乏の窮状を訴えているようで, 少し甘ったるい.

セリフがないため, 貧民的なリアルな描写はあまり得られない. そこには, 長塚節が描いたような, 貧農ゆえに起こる人格の歪みはなく, むしろ却って美化されているかのような印象も拭い去れない. この辺りは作品の性格として評価出来るとしても, 貧農の生活を即物的に描きすぎている, とも受け取れる. 好評価出来るのは, 終盤の子供の死から生活が変わることもなく, 夫婦は常の通りに乾いた砂地に水を与え続ける場面で, 死が物語的なものをあまり抱えていない. もちろん, 子供を失った夫婦が悲しむ場面はあるし, それを乗り越えて大地を耕すという展開が物語的ではあるのだが, いつまでも死に執着することもなく, これを契機に急変を遂げることがないのが, 自然である.


残念な点
・祭りの描写が少ない. 同様に, 秋の尺も少ない.
・夫が妻を殴るシーンがうまく説明されておらず, 浮いて見える.
・全体的に説明不足. セリフがないのであれば, その分場面の一つ一つに解釈出来る幅をもたせてほしかった.

評価出来る点
・映像の使い方ばかりが評価されている向きはあるが, 抑揚のあまりない映画であるにもかかわらず, 飽きさせない工夫としては秀逸. 但, それが作品の質を本当に高めているかと言われれば疑問である. もっと効果的なカメラアングルがあったのではないかと思えるし, 切り替えが早いためか, 人物が生きてこない.
・やはり当時の市井の人の暮らしぶりがわかる点はよい. ベッチャーのような祭や, 小学校の様子がわかってよい.