み(仮)

the best is the enemy of the good

2013-04-29

日頃はゲームをするとき以外, テレビのない生活を送っているが, 「ビブリア古書堂の事件手帖」の時みたいに職場でテレビを観ることがある。昨日は何の気なしにNHKを観ていたら, 安部総理とプーチン首相の会談後のインタビューが流れていて, けっこう楽しめた。

会談の内容は主に平和条約の確認と, 極東地域の経済協力の要請。安部総理は経済協力について, 双方にとってwin-winの関係にあると言っていたが, たぶんロシヤ側からすれば日本がTPP問題で揺れていたから, この際に経済協力を組んでおいていいだろうと思ったか, 天然ガスにしても太平洋側に日本が資源を見出したことで今の内に手を出しておこうと思ったのだろう。政治やら経済にはとんと疎い僕だけど, そのくらいのことは察しがつく。

内容はともかく, 僕としては久しぶりに生のロシヤ語を堪能できたのと, 両国の通訳が異様に緊張していたのが面白かった。言葉に関しては, 他にロシヤ語話者が日本語を話す際のアクセントは欧米語の発音に似ているとか, 日本語話者がロシヤ語を話すとやっぱり日本語っぽい発音になるとか, そんなところ。

ロシヤ語は3年生の頃, ほんの少しだけ齧ってやめたことがある。日本語ではシュとかチとか発音できそうなものが, ロシヤ語ではいくつも分かれていてとてもじゃないが発音できないと思って諦めたのだが, 通訳を聴いていて「ああ, これくらいなら僕でも頑張れば発音できそうだな」とちょっと後悔した。

今はフランス語をやっているから余裕がないけど, また日を改めてロシヤ語を勉強しなおすのもいいかもしれない。もちろん, ロシヤ語でコミュニケーションというか, ちゃんとした会話を交わすことはできないだろう。それはプーチンの言葉が音としてまったく理解できないことからも言える。

極東地域の車工業分野での進出は以前から知っていたのだが, 農業, 医療面でもいわゆる「協力関係」があったのだとは考えもしなかった。まあ, 考えてみればわかることなのだが, これによって僕のなかでロシヤのイメージが豊富ではないことがわかった。どちらかと言うと, ロシヤはいまだ計画経済をやっているというイメージで, 日本との関係においては工業分野での密着があるものと思っていた。

個人的に大笑したのが, 最後のTBSのインタビューとプーチンのやりとり。

北方領土問題に関して日本では半ば占領のような状態が続いているが, 安部総理は今年, どのようなスピードで解決していくものと考えているか。またプーチン首相はこれについてどう思っているか。解決していくつもりがあるのか」

うろ覚えだけど, こんな感じの質問だったような気がする。ひょっとしたら全然違うかもしれないけど, 北方領土についての質問を両国のトップに投げかけていたのは明らかだった。

TBSからすれば「言ってやったぜ」とご満悦なのだろうが, 「アホか」と僕は思った。こんな質問に真面目に答える国のトップがいるものか, と。だいたい, 聞く相手が間違っている。日本では首相の地位が比較的低下していて舐められている状況にあるわけだけども, そのために平気でこういう質問をぶつけて, 民放がしゃあしゃあと評論家気取りのおっさん連中を呼んで罵倒することが日常的に起きている。だが, こういうレベルの話をさっきも言ったように国のトップが本音として語ることはありえないし, 国民が想像できないような問題定期を首相がするなんてことはない。なぜもっとひねったことを言わなかったのか。ジョークがわからない日本人なりに, 相手の真意を掴み取ろうとする「芸当」ぐらいはやろうと思えばできたはずだ。これでは北方領土に愚直でありすぎる。

これに対し, プーチンは優しくも冷徹な言葉を返したのだった。言わく, はじめに「君たちにこの質問を与えたのは会社の上司であると思うけれども, 彼らに伝えて欲しいことがある」。この時点で既にパンチが聴いている。「この会談では今後の両国間の関係をより良好なもの, 連携のとれたものにしたいということを明らかにした。だから今後は解決をより望ましいものにしていくことができると信じている」「北方領土の問題は環境の問題もあり, すぐに解決できるものではない, 難しい問題だ。そこに住んでいる人たちの環境を大きく変えないといけないからである」。たぶんこれにもいくつか聞き漏らしや間違い・勘違いがあるとは思うけど, 概ねこのようなことを言っていた。この発言中, 終始微笑を携えて。そして最後に「アリガトウ」と。外交上の辞令なのだけど, 含みがあるのは否めない。

まさに正論である。これには大笑いした。いや, 笑ってはいけないことはわかっているんだけど, プーチンは国民への話し方をよくわかっていると思った。だってTVだよ。しかも相手のTV局。彼らに政策の何を伝えると言うのだろう。

評論家の呉智英は, 「民主主義はバカの思想である」と大悟した人だが, そのことを思い出しながら, 画面内で暇そうにする関係者を見つめ, メデイアに対するトップの距離の取り方というものをあらためて認識することになった。民主政治が始まって200年以上, 少なく見積もっても現代政治が始まって既に70年ぐらい立っている。国のトップたる人物が, 言わば政治のエリートたる首相がこのぐらいのことにまともに返事をするはずがない。解答がテンプレーションになることぐらい明らかだったはずだ。

誤解があってはいけないと思う。TBSは何も悪くない。ただ, 今回のことは彼らがあまりに民主的になりすぎているがゆえの愚行だったのだ。だから彼らは当の国民が非難しない限り気づかないだろう。僕たちはTVから感情の煽動か, 狭小化された事実を受け取るほかないのだ。あるいは, これを笑う術を見につけるかどうかだろうということだろう思う。

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一緒に観ていた知人が「これでアメリカはどう思うだろうと思った」などと言っていて, ああこの人も反米思想に洗脳されているなぁと思った。反米思想というか, 何に関してもアメリカを意識しすぎな人たちなんだろうけども。いちいち説明するのが面倒だったから無視したが, ここで取り上げられている経済問題はアメリカとはあまり関係もないし, アメリカがこのことに首を突っ込んだところで得られる利益などわずかでしかないだろう。ロシヤの車工業や化学・重工業の発展を危惧することもないことはないだろうけど, それなら発展することを見込んで経済同盟を結ぶかどうかするだろうし。(知らないけど, それか, もうやってるんじゃないか?)

北方領土問題にしても, 国の領域とかアイデンティティに危機感をもった人たちが声高に返還を唱えているだけで, 大半の日本人はそこまで危機感を覚えていないだろう。あと現代政治の教科書に載っているとかで, 重大な問題だと認知している人も多いだろう。僕からすれば在日問題と同じでアイデンティティの問題にしか過ぎないものだし, たまに歯舞諸島かどこかに身内の墓があるとかで渡航をめぐるいざこざがあると耳にすることもあるけれども, 彼らが死に, 世代が交代すればどうなるかと考えてみれば大した問題じゃない。そこまで領土的・地理的な利権があるとは思えないし。

それよりもロシヤがやっているみたいに全国民にパスポートを取得させて, 極東地域と同盟関係を結んだ方が手っ取り早い。実情としてロシヤ人しか住んでいないところに, 日本人が移住してどうなるか。それに60年以上立ったいま, いわゆる北方領土が日本の地域だと思っている人がどれだけいるか。要は地域の固有性を守ることができれば, それでいいんじゃないかと思うのだがどうだろう。

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どうでもいい注
※職場というと既に就職していると勘違いする人がいるから困る。僕は仕事をする場という意味で日常的にこの語を使っているので, 派遣でも別のバイトでも職場は職場としてみなす。あと, バイトを仕事と言ったりすることもあるが, これも別に正規雇用かどうかで使い分けているわけではない。父に仕事という言葉を使ったら, 怪訝な顔をされ, 「バイトだろ」と言われたことが一度ある。が, 仕事は仕事である。社会には非正規雇用で生計を立てている人がざらにいるが, じゃあ彼らの仕事は「バイト」であって仕事ではないのかと言うと, それも違う。もっと複雑なことを言えば, 季節労働で生計を立てている人もいる。日本語では慣用的にこれを仕事と認識するが, 日本人が彼らの「仕事」を仕事とみなし, フリーターなどの非正規雇用者の仕事を「バイト」とするのは, 両方にとっての偏見または差別であるから, 気をつけたほうがいい。

まあ, 何でもニートとか引きこもりと一括りにし, 問題を正規雇用か非正規雇用かで分けて論争する類の人たちには, 言っても無駄だろうけど。