み(仮)

the best is the enemy of the good

2013-05-16

 まとめて無料配布紙を読む。「世界思想」(2013 春)。特集は「認識するということ」で世界思想らしい哲学的テーマが後半に集中。前半は軽いテイストの記事が多い。「ナウシカとニヒリズム」では漫画版ナウシカの現実とは違う世界にいる状態が, じつはニヒリズムの前提なのではないかと分析する。そうだろうか。と言うのも, 当人にとってはその世界こそが「現実」なのではないかと思うからである。誰かがその世界が現実的ではないと批判する場合, 批判者は世界に存在した者とは別の次元に立っている。まったく違う自我をもった別の他人であるかもしれないし, その世界を克服した過去の当人であるかもしれない。ニヒリズム克服の難しさは, 世界がまったくの虚構でないことに由来する難しさであるのかもしれないと思った。
 「未来」(2013/4)。特に目を引いたのは町田幸彦の「モスクワは涙を信じない」(デラシネ備忘録39)と永井潤子の「ベルリン国際映画祭を振り返る」である。後者はベルリン国際映画祭の概要として良質なテキストで, 出品された映画の内容については薄いものの, 短文ながらよくまとめられていて良い。前者は極東地域での開発をめぐる文章で, 資源開発をめぐる政治的な動きが, とくに外交と地域住民とに接して書かれている。ロシヤは外交の武器としてガス資源を利用してきたが, 近年のシェールガス・ブームによって段々と効果を失ってきている。一方, 東欧諸国に対してはガス資源を「アメ」として使い, 「ムチ」として従属を迫ってきたが, それも崩れつつあると言う。サハリン出身の歌手, イーゴリ・ニコラエフの「サハリンを愛する男」の詞に託して, 開発されていく極東地域の孤独感と, 一面では栄光を誇るプーチン政権に対する民衆の不信を描写する。最近ではロシヤと日本との公式な協議がもたれたこともあって, タイムリーな文章だ。
 東京大学出版会の「UP」(2013/5)では木下直之の「動物園巡礼」が面白かった。小田原動物園が小田原城という現代的な観光のシンボルの影に隠れてしまっていることを指摘し, 日本にやってきた像がどのような処遇を受けてきたか, 将軍吉宗以降の歴史を紐解きながら記述していく。天皇に謁見するには爵位が必要であるということから, 像に「広南従四位白象」という位を一時的に与え, 頭を下げさせたと書いてあるところがあった。天皇は近代に入って急に制度化したものではなく, 当時も緊急時には制度的なものとして機能していたのだろうかと考えさせられる。 「古語大鑑」のレビューや當麻曼荼羅について書かれた記事も良かったが, 全面的にフリーページは容量不足感がやはり否めない。
 とは言え図書館にはこれらの正式な雑誌が置いてあるわけでもなく, 買うか, 本屋で立ち読みをするしかないのが貧乏人にとっては少し辛い。こういう雑誌はブックオフでは売れないだろうからなぁ。