み(仮)

the best is the enemy of the good

介護職について

先日, 某友人から介護という仕事について, 疑問をいくつか投げつけられた。何年か前から介護や福祉という仕事について, 一部で注目を集めているのは知っているし, 私がある講習で会った人から話を聴いてみたなかでも, 実際にその仕事に就こうとしている人が多いのも知っている。多くは, 福祉系の専門学校に通っている人であったり, 一度仕事を辞めて介護の仕事に就こうとしている人だったりするのだが, いずれにしても「どうせ就職出来ないのだから」と諦め半分で介護の仕事に就く人が, 異常に多い。

私も, ある四流大学の文学部を卒業し, 在学中まともに勉強せず, 就活もせずといった状況で, 就活に関しては既に諦めている状況で在学当時から介護というバイトを続けていて, 諦め半分で介護職を一生の仕事にしようと思っていたこともあった。だから, 相談を受けた友人にしても, その他大勢の「諦め半分」な人にしても, 気持ちはわからないでもないのだが, 電話をしていて「それでいいのか」と, 疑問を新たにしたのだった。

言ってしまえば介護という仕事はラクなものである。保険制度の恩賞を逆に受ける事も出来るし, 給料も悪くない(後に述べるが, ギリギリ生活出来るという意味である)。特にTV等で"介護=肉体労働"という図式が異様に宣伝されてはいるが, レベルで言えば屠殺場や土方で働く人の方が遥かにキツい。が, それは適材適所であって, 合わない人には合わないものである。合わない理由は色々あるが, それは後述するとして, 仕事には自分に合わないものがあるということが判っていないと, 実際に働き始めても長くは続かない。これはどの仕事でも言えることなのだが, 判っていない人が非常に多い。まあ, 初めて働く人が多いのだから, 当然と言えば当然なのだが。

結論を先に言えば, 自分の好きな仕事をやっていれば, 嫌な部分もある程度耐えることが出来る。これも当然のことである。当然すぎるがゆえに, 顧みられることが少ない。私が大学生の就活に違和感を覚えるのは, 基本的にその点が理解されないままに労働条件で選ぼうとするからで, 自分に最適な条件など仕事に転がっているはずがないであろう。と言っても, 本当に好きで仕事に繋げることが出来る人は少ない。理由としては, 好きなことを見つけられないのと, 仕事に対しての根底的な嫌悪感というのもある。周りを見てみると, 色々仕事をやってみようと思える人こそが, 最終的に自分の好きな仕事に就く事が出来る。ここにある種の精確さがある。

さて, 介護職の現状を俯瞰してみて, 仕事としてはあまりキツくないと先に述べたが, それでもキツいものはキツい。特に温い大学生活を営み, 現実感覚が麻痺した大学生(イヤミと自己嫌悪)にとっては, この世を儚むような肉体労働に見えることだろう。一般的なホームヘルパーだと朝は早いときで5時に起き, 起床介護, 家事労働, 人によっては排泄介護を繰り返し, まさにプロ並の効率さで一件仕事が終わればまた次の家へと飛んでいく。その繰り返しで昼食休憩すらまともに取れないときもあれば, 夜に帰宅して就寝, 後に緊急で呼ばれることもある。ここまで酷い状況になることは珍しいかもしれないが, 実際にあるときにはある。

他の環境でも似たようなもので, 特養や病院での介護は純粋な肉体労働が多いだけ, 倍近く大変であると言われる。私が直接に特養で働いている人から聞いた話では, 夜間のパートだけでおむつを300人分替えたと言う人もいた。実際, 私も高校在学時に特養で部活をした経験から言えば, 仕事は大変なものであると想像出来る。介護の中でも比較的ラクと言われているデイサービス, 宅老所の仕事にしても送迎や風呂介護などがあったりして, 肉体労働であることを免れない。肉体労働が得意な人ほど, デイサービスは逆にキツいものであるかもしれない。全く噛み合わない人との会話を仕事では強制され, 自分が何をしているのかわからなくなる。唯一, 介護で精神労働の一面がかいま見えるところである。

精神労働とはニュアンスが異なるが, 共に働く人とのストレスが多いのも, 介護職ではよくある話ではないだろうか。まともに労働倫理を学ばず, 基本的な家事労働や利用者との接触の仕方がわからないまま, 通信教育を受けて入ってくる人と仕事を共にしなければならないのは, まともに働こうとする人ほど辛いことなのではないか。それだけならまだしも, 基本的な性格が破綻している人も多くない。私も以前, 友人から性格破綻者との罵りを受けたことがあるが, そう言うに易しい人たちも職場にはいることもある。噛み合わない会話, まともに仕事をしないがゆえに受ける苦情…苦労はその人しか味わえないだろう。

もちろん, ストレスはどの環境においてもある。だが, 普通の職場では面接を受けて入ってくる人が多いし, 面接がザルな土方などの純粋な肉体労働では, 逆に(そう言うと失礼な話ではあるが)性格のまともな人が多いという印象を受ける。それに, 集団で行動するので, 規律も守られている。一般の介護職では面接はザルで, 良くも悪くも色々な人が入ってくる。仕事の出来ない上司が付いたときの苦労はどんな職場でも耳にする。

色々やって, 多くて20万ぐらいの収入しか望めない。病院や特養の場合で, である。割に合わないと言って辞める人が多いのも納得出来るだろう。だが, もう一度言うと, これも適材適所なのであって, 介護職が天職と言う人もいる。つまるところ, 安直に仕事を選ばず, 自分の好きな仕事を選んでやってほしいと思うのである。偉そうに言う私も, 大学を出てフリーターとして介護を数年続けただけの若造でしかないし, 先に述べた好きな仕事をやる云々の話も, 以前にさる友人から聞いた受け売りでしかない。もちろん, 今ではこの言葉を信じているし, 自分への訓戒のつもりで思っている。仕事はある。だからこそ, 自分の好きなことをやりたいと思うのは, 人間らしいことではないか。周りの人には信じる道に従って抗って欲しい, そう思うのは自己満足でしかないのだろうか。