み(仮)

the best is the enemy of the good

「息子のまなざし」

息子のまなざし (原題:LE FILS THE SON)

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ / 2002年 / ベルギー・フランス / 103分

#殺人, 罪, 少年, 父, 復讐, 職



"息子を殺された両親は元殺人犯を赦すことが出来るのか"を誠実に問うていながらも, ある種の啓蒙に陥ることなく, 又悲劇やカタルシスを騙ることもなく, 共に生きる姿を描いているのには私の中で何か動かされたものを感じる。そこには宗教と復讐というテーマのように, 歴史や文化に口実を作ろうとする動きもない。



そう, 「5年も罪を償ったのだ」と逃げる子供に, 慌てて弁解しながらも少年への憤りを隠せない父親に, 少なくとも宗教の翳は投影されてはいない。父は強くなどない。理想とは遠いところに位置づけられている。どこか, 二人が走る姿は同監督たちによる「ある子供」のアベックを思い出させもする。



あくまでリアリティではなく自然に映すことに徹しようとする姿勢に, いつも面白いと感じてしまう。私は作られたリアリティの方が好きな性質だが, 物語をある程度作っておいて自然に演じさせるやり方もそれはそれで嫌いではない。たとえばカメラは人物の視線によって意図的に動くわけではないし, 普通に聴こえる音が映画の中で聴こえるのはとても新鮮な体験だ。この作品でも印象に残るのは, 所謂リアリティではなく, 常にそういった自然な動きで, 特に父であるオリヴィエが家でやる腹筋運動は彼のやり場のなさが滲み出ていて面白いと感じる。



イゴールの約束」でもそうだったが, オリヴィエ・グルメが板についた演技で「息子のまなざし」に合っているのは, やはり名優であると思う。
(2013.02.01)