『選挙』
選挙 想田和弘, 2006, 日本・アメリカ
川崎市議会の補欠選挙に自民党公認で元切手商の山内和彦が出馬し, 彼の当落までの足跡を追う。カメラは監督の想田がやっているが, 殆どカメラがいないかのような自然な行動を観察している。
「観察映画」第一弾として出されているだけはあって, 視線がシビアである。見ていて胃が掴まれる思いが何度かする。最初は営業のような, 公務員試験のような変な感じで眺めていたのだけれど, 途中の山内の「体育会系なんだよ」という言葉で我に返る。
選挙は殆ど村社会的でもある。これが東京であればまた事情は違ったのだろうが, 中途半端に片田舎な地方都市であるから, シビアな「後援会」(実際はほかの議員からの派遣)メンバーの応酬がキツい。平気で山内に怒声や叱咤激励, 指示が飛ぶかと思えば, 気が飛んだ, 触れてるなどの露骨な差別的発言まである。それら全部をカメラが作ったようなやり方ではなく, ほぼ直接我々の目で通してみるから, やはり刺激が強い。
これが自民党だから村的なのか, それとも神奈川ネットワークや共産党の現場では違って見えるのかはわからない。ただ, やはり独特なものは感じる。「妻」を「家内」と強制的に呼ばせ, 当の女性がいる現場でセクハラ発言を平気でする議員がいるのは, 日本の選挙の特異さを伝えているようでもある。
異色な山内だからこそ, こういった現場がイデオロギーを介さず伝わっているのかもしれない。なんと「選挙2」として続編が出されているが, こちらは無所属としての出馬らしく, また違った視点から選挙の現場が見えるのではないかと期待している。 (B+)