み(仮)

the best is the enemy of the good

羽海野チカ原画展 博多阪急にて 6/25

 6/25、羽海野チカの個展へ行ってきた。経済的に不安定な状態だったが、行かないで後悔するのもどうかと思い、バスで天神へ行き、そこから地下鉄に乗り換えて博多駅へ。久しぶりの博多駅は、平日というのに人で賑わっている。これが下関駅なら、まあ少しは人がいるだろうが、昨今の節電、下関駅の改修の影響もあって、こうも賑やかしい感じにはならない。絶対的に田舎なのである、下関は。

 羽海野チカの原画展は博多阪急で行われている。博多駅に隣接している、割に老舗のデパートで、無理やり下関に置き換えると、大丸のようなものだろうか。大丸も福岡に大きいのがあるから、こう言うとどこからか怒られそうな気がするが。

 正直、阪急というデパートで行われるマンガ家の原画展というものに、多少の抵抗感はあった。羽海野クラスの有名マンガ家ならば都内など、都市部で既に何度か催されているだろうし、この原画展も単なる再生産に過ぎないのではないかと思っていた。いや、再生産ならまだいいが、質的に劣るのなら、それこそ行って後悔するのではないか、と。

 だが、原画展というものは行ってみるものだと感じた。後悔を恐れて行かないのでは、行って後悔するよりも余計に後悔する。

 まず原画の量が半端ではない。美術館で有名画家の個展が行われたりするが、ほとんどそれと遜色ないレヴェルだ。入口で少し同族の匂いのする女性にお金を渡し、チケットと絵葉書をもらう。入るとまず目に入るのが、壁に並べられた色紙の数々。

 無知な私でも高橋しんやあずまきよひこなどの名前ぐらい知っているし、他人事なのに、なぜか嬉しくなる。マンガ家のつながりを意識した瞬間だった。向かい側にはヨーロッパで売られている羽海野のマンガの表紙。あとは原画の数々で、かわいい絵の魅力にハマり、少し気づきにくいが、相当に絵が上手い。しかも、画風を使い分けているので、感嘆するばかりである。

 先頃、友人と羽海野チカの画の魅力について話したが、私は羽海野の絵には所々、「妙」にリアルな質感があるというようなことを言った。彼は私の意見を補足するように、「3月のライオン」にそれが顕著に表れている、と述べた。マンガは基本、「絵」だから好き好みがあって、彼の場合、その「リアルさ」に惹かれるから読んでいるものの、羽海野の「絵」はあまり好きではない、と言っていて、「なるほどなあ」と思ったものだ。

 そういう私もあまり好きな方ではないが、各々の原画にはそれぞれ違いがあって、たとえばDVDのパッケージ、雑誌の表紙絵などと安易に「絵」がカテゴライズされないのも、観る側の感性を刺激してくれる。もう一つ、感性云々で言えば、壁で仕切られた展示場の中には羽海野の世界観を補填するように小道具が置かれている。こういうことが許されるのも、また羽海野の魅力の一つと言ってよいだろう。

 あと、最後の方で羽海野のマンガ創作の方法が紹介されていたのだが、これがすごい。一枚を8分割にし、ストーリーをコマに振り分け、徐々に要らないコマを削ったり修正したりして、完成原稿に近づけていく。タグには「すべすべ」にしていく作業とあるが、かなり根気のいる作業であるのは想像に難くなく、マンガへの過剰な思い入れを感じた。

 私は1時間ぐらいで観て回ったが、普通は1時間以上かかるだろう。あと、客のほとんどが女性というのも、意外と言えば意外。平日の昼間という時間帯もあるのだろうが、「3月のライオン」や「東のエデン」の影響もあって、もっと男性客がいるものと思っていた。販売員もほとんどが女性。むしろ巡回している警備員が男性で、怖い。

 これぐらいの規模なら、解説があったり、観る側に別のアプローチを提示してくれてもよいのにと思ったが、今後、羽海野を研究する人が現れたら、それも可能かもしれない。誰かしてくれないだろうか。明治大学の「吾妻ひでお展」並の展示を。