み(仮)

the best is the enemy of the good

「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
監督:吉田大八 / 脚本:同左 / 原作:本谷有希子,
出演:佐藤江梨子, 佐津川愛美, 永作博美, 永瀬正敏, …
製作:モンスター・フィルムス, ティー・ワイ・オー, アミューズソフトエンタテインメント, ファントム・フィルム / 2007年, 日本.

北陸の田舎を舞台に, 家族, 夢, 愛などのテーマを描いた作品…と言うと日本の近現代小説のようだが, この映画, 説教臭くないぶん, 胸に響くものがある. 後半の怒涛の展開, マンガの1ページのような奇を衒ったシーンなど, 気になるところがないわけではないが, 素直に素晴らしい作品であったと認めたい.

和合澄伽のキチガイぶりや兄の曾太郎のDVに対して頭に来, 待子が気持ち悪いと思い, 清深がかわいいと思い, 最後には同情する. ここまで感情が揺さぶられるというのも, 映画として出来の高い作品であるからであろう. 清深の終盤近くのセリフ, 「お姉ちゃんは自分の面白さを全然わかってない」についても夢を追いかけることが諸刃の剣であることを示し, 更に人生の選択を「面白さ」に結びつけることが可能であることを示している. 作品の中で, 私はこの清深のセリフが好きだ. そして身内の恥をマンガにする姿勢にも好感がもてる. と言うより, こうでなければマンガというものは面白くならないとさえ思える(私小説的な意味として).

気になるところと言えば, 1)結局, 待子一人のみに村の今後を担わせることになったが, それがよかったのか, 2)面白さを理解出来ない家族に救いはあるのか, というところだろうか. 1)に関しては, 「面白さ」が命運を切り開く鍵になりうることを終盤で示しているのだが, 待子の念力や人形作りがある種の面白さであるにしても, はたしてそれが町の何かを変えるきっかけになるのだろうか, ということなる. 人形作りで町興しという方法も考えられるが, それでも2), 町の他の人たち, または家族がそのことを理解出来るのかということについては, かなり懐疑的にならざるを得ない. 澄伽がいなければ待子たち夫婦は関係がよくなったかもねと清深は言うが, 家族愛と夢が同時に満たされることはないのであろうか.
(10/12)