み(仮)

the best is the enemy of the good

「黒いオルフェ」

黒いオルフェ
マルセル・カミュ / 1954年 / フランス / 107分

#カルナヴァル(カーニヴァル), 太陽, 黒人, ギリシア神話, 死, 恋愛

ギリシア神話オルフェウス伝説をモティーフにした恋愛物語。おそらくはブラジルを舞台として, カルナヴァルを通して異国情緒を全面に出した作品で, それ以外に目を見張るところがあまりない作品。眠くなるし, エキゾティックな雰囲気に裏打ちされたメッセージは正直分かりにくい。

仮面や仮装を駆使した演出は面白いと思うものの, だからと言ってそれらが主要なテーマであるわけではなく, あくまで小道具の一つにしかすぎない。恋愛の描写もごくありふれたもの(女が死神と共に追いかけてくるシーンはよかった)で, 終盤の意味深にも取れるセリフの数々は個々目を見張るのだが, まったく調和が取れていないように感じる。

「太陽」を復活させようとし, カーニヴァルのように踊る子供たちは伝統の再生を語っており, 意味は異なるが, 最後に子供を登場させるあたりは美少女ゲームの"AIR"とも類似していて面白い。ただ, それだけにもう一ひねり欲しかったところ。黒人の「祈るしかない」という立場を表に出したのはよいが, 黒人の嘆きも, 永遠に続くかに思われるカルナヴァルの音楽の下にはたんなる異文化への憧憬とも受け取れてしまう。

ネタとして, 死神の実体化をカミュ流の実存主義のあらわれとしてみることもできるが, どうも不安や恐怖といったものを感じない。
(2/22) ,評価:C