み(仮)

the best is the enemy of the good

『神童』

神童
萩生田宏治, 2007, 日本

想ったよりも良かったので安心した。テーマみたいなものは音楽と死だろうが, 安易にオチをつけるわけでもなく, また進路や恋愛などの展開でも決着をつけるわけでもドラマティックに仕立てるわけでもなく, 割と普通に終わった。普通に良かった作品。

多少無理があるだろう, というところもそもそも成海璃子扮するうたが13才という設定に無理があるような気がするので, その辺りは受け入れられる。序盤の回収も, 時系列的, 事実的には符号しないまでも, 終盤まで来るとなんとなく腑に落ちるところもある。

しかし, 序盤のセリフを和音が言うのはなんかなー。

それはともかく, 音楽が流れるだけで感情移入して泣けてしまうので, 映画の出来とは別に音楽は素晴らしいものだと感じる。

作品の長さはあまり気にならなかったかな。
(C+)

『選挙』

選挙 想田和弘, 2006, 日本・アメリカ

川崎市議会の補欠選挙自民党公認で元切手商の山内和彦が出馬し, 彼の当落までの足跡を追う。カメラは監督の想田がやっているが, 殆どカメラがいないかのような自然な行動を観察している。

「観察映画」第一弾として出されているだけはあって, 視線がシビアである。見ていて胃が掴まれる思いが何度かする。最初は営業のような, 公務員試験のような変な感じで眺めていたのだけれど, 途中の山内の「体育会系なんだよ」という言葉で我に返る。

選挙は殆ど村社会的でもある。これが東京であればまた事情は違ったのだろうが, 中途半端に片田舎な地方都市であるから, シビアな「後援会」(実際はほかの議員からの派遣)メンバーの応酬がキツい。平気で山内に怒声や叱咤激励, 指示が飛ぶかと思えば, 気が飛んだ, 触れてるなどの露骨な差別的発言まである。それら全部をカメラが作ったようなやり方ではなく, ほぼ直接我々の目で通してみるから, やはり刺激が強い。

これが自民党だから村的なのか, それとも神奈川ネットワークや共産党の現場では違って見えるのかはわからない。ただ, やはり独特なものは感じる。「妻」を「家内」と強制的に呼ばせ, 当の女性がいる現場でセクハラ発言を平気でする議員がいるのは, 日本の選挙の特異さを伝えているようでもある。

異色な山内だからこそ, こういった現場がイデオロギーを介さず伝わっているのかもしれない。なんと「選挙2」として続編が出されているが, こちらは無所属としての出馬らしく, また違った視点から選挙の現場が見えるのではないかと期待している。 (B+)

『アラヤシキの住人たち』

アラヤシキの住人たち
本橋成一, 2015, 日本

長野県の山中にある真木共働学舎を撮ったドキュメンタリー映画。山中深くにあるため, 通常は買い出しやその他の用事で山を徒歩で降りなければならないらしい。こういうところもあるのか, NPOだろうなと思ったら案の定そうで, 長野県内にあとひとつ, 新潟県, 北海道にも同じような学舎があるとHPに記載があった。

長野県の代表は宮崎信氏で, 設立者の宮崎真一郎の次男。もう高齢であるが, 壮健で重労働もこなしている。ほかのメンバーもそれぞれ薪割りや除雪, 農作業などそれぞれ簡単とは到底言えないような重労働に参加する。学舎にはボランティアとして青学の学生も参加することがあるらしいとクレジットで知ったが, 基本的には学舎のメンバーだけで「自給自足」に近い生活を送っている。メンバーは色々あって故郷で暮らせなくなったひとたちがほとんどであるらしく, 全国的に色々なところから来ている。劇中, メンバーの一人が脱走, また戻ってきてメンバー同士話し合う光景も見られた。いつかまた戻ってきたくなる環境を目指しているということで, 反省はしながらもわだかまりをほどきつつ, また再度スムースに生活できるようになっている光景が面白い。しかし, 半面で抜けていくメンバーも多い。

メンバーは一言で「障害」と言えない様々な人がいる。劇中, そのことの説明はほとんどなかったが, いずれも暮らせなくなったことで学舎に来る。一般的に「社会生活を送ることができない」ことを「障害」と定義する場合でも, また医学的に「障害」と定義付ける場合でも, いずれからも逸脱するような「様々なひとたち」がそこでは生活している。急に奇声を発するひと, よく聞き取れない言葉を延々話しつづけるひと, 一般的に常識とされるものが理解できていないひとたちなど, 多くいるがそれでも普通の人たちとは変わることなく生活している。競争社会ではなく, 協力社会をという学舎の理念に根ざしているとも言えるし, ヒッピーみたいだな...ともなんとなく考えていた。

劇中では人生の様々なことがこの学舎で営まれているのが見られる。一つ大きなイヴェントでは結婚式があった。男女のメンバーがそこで知り合い出産して, 挙式をする。出産は下山して病院で, ということなのだろうが, 式場ではメンバーが祝言の奏上から新婦の引導, 音楽披露までやっているのがわかる。結婚を一つの人生イヴェントとした場合, では生死に関わるイヴェントはどうだろうかと思ったが, それに関してはまったく触れていなかった。墓が学舎の近辺にあるとの描写もなかったので, 別の場所で葬儀などは行うのかもしれない。

映画自体の出来はどうか。最初わたしはあまり評価していなかった, というのも綺麗に撮りすぎているのではないかと思ったのだが, メンバー同士の笑いや茶化す場面などを見ながらそこはそういうコミュニケーションが働く場で, 綺麗というよりはそういう雰囲気を描写しているのではないか, との考えに至った。人物や対象の見え方も自然に感じるし, とりわけ不自然には感じない。むしろ場の非論理的な行動である笑いや奇声, 万歳の繰り返し, シャベルを雪中に突きたてたまま数十秒そのままの状態を撮るなど, ありのままを撮っているような印象があり, 好感触。また, キリスト教的な発想がそういったコミュニティの習俗になりつつあるようなのもみえて, 興味深い。かつての宗教はコミュニティを変えて習俗レヴェルに変化するとの仮説がもしかしたら立てられるかもしれない。

メンバーの一人が帰ってきたときのミーティングで, 昔わたしが関わった障害者団体での会合に似ているような気がして, それを思い出しながら見ていた。社会不適合者とされる「色んなひとたち」が, そういう場で主体的に, 自主的にコミュニティを作り, 生活する場がまだ日本にはある。学舎とその団体とではもちろん社会へのアプローチや理念など, 多くのことで異なるだろうが, いずれも大枠の行政や社会という不気味な存在に対し, 自分として生きる場であることを保つことに変わりはない。そういう場も, あって良いのではないかと感慨深く思う。

雑感, 2015.9

倉敷

岡山へ旅行に行ってきた。友人と会いに行くというのが名目で, 初日に倉敷と岡山でぶらぶら。まずは美観地区で, 帰りながら商店街も散策。美観地区は初めてだったが, イメージ通り, 昔の町並みをそのまま残してる感じ。土曜日だったためか観光客も多く, 特に外国人観光客も多かったので, あーこういうの好きなんだなぁと。

友人が言うには「中国人や韓国人も多い」とのことだったが, そこではそんなに見なかった。というか, その友人も美観地区を歩くのは初めてのはずなので, またこいつもテレビや人づてに聞いたものをそのまま言ってるだけなんだろうなと。差別感情を湧出させるようならめんどくさくなるだけなので, 「いや, みてないが」と言いつつ話を切る。

尾道でもそうなんだけど, どうやら古い町並みと石や猫の相性が良いらしくて, 地区内に入っていきなり猫関係のお店があったのには驚いた。入ると, 猫のグッズが多い。日本人だけではなくて, 欧米の(どこの言葉か聞いても分からなかった)人たちにも人気がそれなりにあるらしい。中にはガラスケースに入った本物の猫も。あと, なぜかイヌのグッズも。

土産ものは酒だったり, 布製品だったり, 食べ物関係だとコロッケとか。

まあ今回は全部みるだけにして, 目的の蟲文庫を探す。これは友人の目当てだったのだけど, 彼が調べてなかったので, 調べながら探すことに。そのことはまったく時間の無駄だった。

蟲文庫, 期待以上に良い感じで, 知らなかったのだけれど, 古本屋だった。中にはCDも置いてある。友人は顕微鏡が良かったと言っていたけど, 俺はそれを見ていない。するとバカにされたのだが, 中の本の種類が思いの外豊富だったので満足していた。動物関係しかり, 映画や芸術関係しかり。

本屋そのものはそこまで大きくない。こじんまりとしていて良い感じ。若干高めの値段設定だけど, 買う人は買うんだろうなぁ。

美観地区は, 古い町並みが好きな人には良いのだろうし, 再利用している感じが見受けられるから好きなのだけれど, その反面で駅前の古い商店街が過疎化している。殆どシャッター街。同じ地区に商業地区を幾つも作っても, 住み分けが出来るわけではないってことが改めて分かって残念だった。決して街そのものが過疎化しているというわけでもないのだろうし, 駅前はビル街でもある。コンパクトに機能がまとまっている感じもする。だけど, 置き去りにされる人たちはどうなるんだろう, と竹原でも考えたことなので, 今後とも考えていきたい。

あとアリオを散策しながらぶらぶら。

岡山

これも4年ぶりぐらい。やはり巨大化している。「大都会岡山」と言われるだけあって, 前に来たときよりも更に巨大化して威圧感のある感じ。しかし, 友人は「駅前だけ」だと言っていた。今回は路面電車等には乗らず, 地下街やイオンの中, あるいは商店街の中と言った感じでうろうろ。ここは割と繁盛している感じなのだけれど, それでも寂れている商店街も多い。イオンのせいというよりは, 個人店が需要を創りだせなかったツケなのだと思う。だが寂しいものがある。

例によって遊びに来いという割には出不精でものを知らないので, 殆どゲーセンなのが残念だった。夕食も松屋でいいだろ, と言ったらイオンの中を探すと言い始め, 案の定高すぎたので入れず, それでもどこかにあるだろうと飲み街を中心に散策。あるわけもなく, 中途半端に地下街のつけ麺屋に入り, くそ不味い冷麺をいただいた。くそ不味いと友人にいったら案の定, キレる一歩前の顔をされたが, 不味いものは不味い。あと高い。

夕食前にはゲーセンの他にアニメイトにも行ったが, らしんばんプライズばかりになっていたので驚くなど。この店, 前から商売上手なところがあるけど, 傷ありの返品はしないとか, プライズに高い値段を設定したりとか, 更に輪をかけて利益追求してる感じがしてアレだった。その後で広島にも行ったけど, そこでもだいたいそんな感じ。

尾道

三原で泊まって尾道へ。漁師町なので対応はアレな人が多いのだが, 今回もまさにそんな感じ。おまえは客を何だと思ってるんだと。

尾道はまずシネマ尾道で映画鑑賞。今回初だったけど, 女の子と男の子, それにベテランっぽい感じの女性店員がいて, とにかく女の子がショートカット(ボブ?)でハスキーボイスでかなりかわいい感じ。大学生か, 高校生か。まあ多分前者だろうけど, 接客は下手なのに可愛さでカバーできてて好印象。接客のうまさは男の子の方が上手かったけど, まあ。

映画の感想は次回に譲るとして, 雨が降っていたので散策は諦めて, 尾道大へ。日曜日で開いているか分からなかったが, ほかの学生さんも2人ほど同乗したので開いてるかと思ったが, 開いてなかったので辺りをぶらぶら。きのこを見つけて写真を撮る。

戻って商店街を再度ぶらぶら。ホホホ座が近くにできていると知って, アパートを探す。どうやら閉店中の様子だったので写真だけ撮ってあとにする。アパート自体が再利用として広告に出されているらしく, ほかにも色々な店が入っている感じ。別府の清島アパートをなんとなく思い出す(実際は全然違うだろうが)。

広島

夕方頃に着いてアカデミイ書店をまずは探したけど見つからず, 紙屋町へ行って通称「オタク街」をぶらぶら。夕食はサイゼリヤで, 店員の態度にキレかけて威圧的な態度を取りながらジェイムズ・トンプソンの「白の迷路」を読了。

ゲーセンのプライズのとり方が色々あって驚く。個人的にはハート型の輪を引っ掛けて落とすタイプのが取りやすいのではと思ったが, いずれにしても一回では無理なので1.5k円かかると計算したら, 一気に取る気が失せた。

ふたば@Cafeにはじめて泊まり, 会員証の登録を済ませる。携帯電話の登録がない場合, 忘れ物をした場合に連絡ができないと言われ, じゃあ家の方にしてくれと言ったら「それはできないことになっている」と。でも取り敢えず書いてくれたらいいみたいな不審な態度を取られたのでむっとしたが, 鼻で笑ってそそくさと個室に戻った。

気づいたけど, 店で注文した場合にノックして, その後で開けてくるひとと開けるのを待っているひとがいるらしく, 今回は4回, 三原でも試してみて開ける派が1人, 開けない派が3人だった。統一してほしいものである(神経質なので開けないでほしい)。

竹原

時間が余ったのでついでに竹原に寄る。呉線で, 広島からよりも三原からの方が近いと知って, 大幅なロスのように感じたが, 逆に言えば呉や広を通過することにもなるので良かったか。しかし, 呉などでは降りず通過する。竹原までは広島からだと2時間弱で到着する。第一印象は「寂れている」。これはあまり口にされないだろうが, 特にこの日は月曜日で駅前の商店街は殆ど人が通っていない状況だった。

竹原と言えばニッカウィスキーの竹鶴政孝の出身地として有名らしいが, 最近では「たまゆら」というアニメの舞台となったとかで, まず駅を出て右手に目に入る総合観光案内所の看板には大きく取り上げられているのが目に付く。しかし, 「たまゆら」も放送終了して結構時間が経つし, 映画の放送があったとはいえ, 宣伝効果もあまり無いような状況に差し掛かっているのだろう。竹鶴政孝の宣伝と対になって売り出しているのが印象的だった(但, 竹鶴ののぼりやポスターなどは古い印象があり, 特にのぼりなどは繰り返し使われてきたのであろう)。

私は残念ながら「たまゆら」を観たことがないので, よく知らないのだが, 高校生を中心に繰り広げられる青春ストーリーもののアニメらしい。制服を中心に売っている店では大型の登場人物をかたどった人形が何体か置かれ, その近くのベンチにはおそらくはアニメ中のキャラクターの人形が置かれているのもみえる。また, アニメグッズを売る店も何件かみられ, 商店街を上げて売り出している印象がある。だが先述の通り, 月曜日の昼間という時間的状況や, アニメの宣伝効果の薄れなどもあって, 商店街に人気は殆どなく, にわかに私と同じような単独の観光客(風貌からオタクであると想像できる)や大学生のゼミかサークルなどの団体客がみられる程度であった。

時間的な都合から町並み保存地区には訪れることが出来なかったのが残念である。近辺ではあるが, 道の駅たけはらには訪れてみたが, あまり「たまゆら」を宣伝している様子はなく, こちらはどちらかといえば市民の交流の場, 地産地消を実践する買い物スペースとして成立しているようである。

いわゆるアニメの「聖地巡礼」は近年特にツーリズムとの結びつきが強いとの研究もあるらしいが, 竹原は地域アピールとして全体的に取り上げている印象が強い。私は以前から何度か聖地巡礼を実践しているが, 地域が全体的に, しかも行政を通じてまで盛り上げようとしている例を知らない。「たまこまーけっと」では舞台の商店街がTシャツを売り出すなどしているが, 地域全体を通しての運動ではないし, 行政が絡んでいるとの話を聞かない。また, true tears では観光協会がバックに地域を盛り上げようとしていたが, せいぜいポスターを売るなどの販売活動であり, 商業的なニュアンスは低いものであった。

とは言え, 竹原は何度も言うように, 残念ながら商店街が衰退している地域であると受け取られる。町並み保存地区を訪れることは出来なかったが, 倉敷同様, 保存地区だけが観光客も多く, 商店街がなくなっていっているかのような印象を受けてしまう。これから「たまゆら」を見ながらじっくりとその問題の核心について考えてみたいところである。

TheWorld 3.3.0 Latvia

前バージョン Kyoto からまさかの Latvia になった。前から作者が Twitter で発言していたように, 横画面に対応している。iPad には未対応

主な変更点としては,

  • 横画面対応。マルチカラムで, 2カラムまでカラム表示出来る。横にスワイプすることで他のカラムも表示できる。
  • キャッシュ削除ができるようになった。設定から行える。画像キャッシュを削除することが可能。
  • 画像検索に対応。
  • iOS 8 に対応したらしい。

トノコト。

横画面対応は以前から要望のあったもので, アップデート当日は TL が盛り上がっていた。
作者曰く, 大きなバグがないとの話だが, 手持ちの iPad mini ではアプリアイコンが表示されなかったり(白い画像として表示される), 横画面にした状態でボタンが重なって表示される現象が見られた。iPad で使うにはま完成に至っていないようだ。

今後のアップデートに期待したい。

あと, 毎回思うのだがローカライズがまともに機能しておらず, 英語のままだったりするのをどうにかした方が良いと思うのだが...。今回の横画面対応に際しても, アプリの説明に「どこを設定すればいいのか」の記述が一切なく, 設定にある Landscape や in LS の表示で判断しなければならなかったため, 利用者が混乱していたようである。公式アカウントに今回のアプリアイコン非表示のバグの件で質問を送ったが, 一切回答がなかった。往時は批判に答え成長していくアプリであると宣伝していたと記憶しているが, あの勢いの良さはどこへいったのであろう。

2014.11

2014年 11月の読書記録まとめ (読み終わった本)

「図解雑学 統計解析 (図解雑学シリーズ)」

丹慶 勝市/ ナツメ社/ 1404円/ (2003/03/26) ■ 読了(2014/11/30) / 評価:2.5 / 前半は統計学の基礎となる分散や平均の説明を, 後半はそれを元に数学的な解説を多く行っている。難しく, 読了しても仕組みを理解する助けにしかならないが, 大まかなイメージを掴むのには適している。本気で解説として読むにはふさわしくなく, 仕組みと理由とを紐付けたものでしかないので, 実際に頭で理解するには統計データを見て問題を解くかのように本物の数式にあたってみるのが良いのかもしれない。幸いにも, 私が通う図書館には統計学関係の蔵書が比較的に優れているようなので, 今度何冊かあたってみようとも思う。また, 統計は現在では電子計算機上で扱うものである。仕組みを理解すれば, 今度はR言語という統計で使用する言語を触ってみることで, より実際的な感覚を身につけることができるかもしれない, などと思う。 http://www.readingplus.jp/entry/4816334726/42464001

「ミミズ図鑑」

石塚 小太郎,皆越 ようせい/ 全国農村教育協会/ 5184円/ (2014/04/11) ■ 読了(2014/11/30) / 評価:3.0 / フトミミズについて書かれた本。ミミズの実に95%ほどがフトミミズであり, その種の多さは特筆すべき点であるが, 驚くべきことに2割程度しか名称の決まった種は存在しないという。それもそのはずで, 本書を一目すれば分かる通り, フトミミズの種類を素人が判別するなど困難であると分かる。どれも普通のミミズが少し変わったかどうかというぐらいで, みな一様に「ミミズ」なのだ。気持ち悪くすらなってくる。

判別方法は色々あるが, 外見的な決め手となるのは以下の5つである。 1. 体の断面の形 → 円筒, 偏平 2. 環帯の形と位置 3. 剛毛の配置 4. 外部生殖器の位置 5. 背孔の有無

環帯とは成体の特徴であり, ふつう白く太くなっている箇所である。ミミズは雌雄同体であるため, 雌・雄性孔をもつことになるが, これらは性の外見的特徴であり, これをつかってミミズは交尾を行う。 環境的な違いでは土壌の深さによって生息するミミズの種類と特徴が異なっており, 表層種, 浅層種(30-100cm), 深層種(100cm-)と分かれる。また, ミミズの種類によって内蔵器官, 特に腸盲嚢などの形が異なるため, 通常ミミズの種類はこれらの因子を比較検討しながら決めることになるようである。

このように複雑であるため, 名称も適当に付けられただろうという種類もあり, ノラクラミミズやゴツイミミズなどの種類も存在する。クソミミズなどは名前がいかにもなアレだが, 通常はトグロを巻いたように丸まっているためこの名があてがわれたという。ユニークな事例である。フトミミズ屬の生物学的な記載はオランダの自然史博物館の学芸員であったHorst氏によって3種が記載されたことに端緒を欲している。その中に青黒い体色のシーボルトミミズがいる。

  • フトミミズの採取は地層によって異なる。表層や浅い層は比較的採取が容易であるが, 深層は降雨時また事後に出てきたミミズを採取するか, または巣孔に7%のマスタード水溶液を滴下することで採取できるのだという。

  • 採取後は夏場であればアイスボックスなどに入れて持ち帰る。

  • ホタルミミズやイソミミズは発光することで知られている。

http://www.readingplus.jp/entry/488137172X/42464001

「オオカミたちの隠された生活」

ジム&ジェイミー・ダッチャー/ エクスナレッジ/ 3024円/ (2014/05/02) ■ 読了(2014/11/29) / 評価:3.0 / ソートゥース群と呼ばれるオオカミの群れを近場から何年もかけて観察することで, オオカミたちの生き生きとした姿を写真にすることに成功している。図版が多く, 解説は少ない。アメリカの絶滅危惧種法によって1970年代にリスト入りしたオオカミだが, 2003年にはリストから外されることになり, 再度市民, 猟師, 牧畜業家たちの憎悪の対象となっていく様を写す。巻末では, これまでのオオカミを管理する方向からオオカミと人間を交えた関わりの方法を管理していくことを提案している。

オオカミの俗説についても異議を唱えており, 特にオオカミが残虐で, 人を襲い, 家畜をダメにする動物であることには積極的に議論を仕掛けている。が, オオカミが生態系を変えることに異論がないわけではない。むしろ, ワピチやコヨーテの行動圏を変えたことを明かしてもいる。

オオカミの生態系については詳しく記さないが, オオカミの社会的な行動についてはいくらか詳しく書かれており, 特にオメガと呼ばれる群れの最下位を占めるオオカミが, 群れの中で「遊び」を提案する地位を占めており, このことで群れのバランスが取られることは興味深い。 http://www.readingplus.jp/entry/4767817161/42464001

「最新 クラゲ図鑑: 110種のクラゲの不思議な生態」

三宅 裕志,Dhugal J. Lindsay/ 誠文堂新光社/ 2376円/ (2013/05/24) ■ 読了(2014/11/25) / 評価:3.5 / クラゲについて書かれた本。ページ数は127と薄いが, 全ページフルカラーで写真を豊富に用いている。 クラゲを門と綱に分類し, そのうえで大きさ, 見られる時期, 分布, 飼育難易度や適切な飼育温度のデータも載せている。一般人が飼育出来るようにこれらのデータを載せており, 巻末には採取と飼育方法の簡潔な解説まであり, 充実してはいるが手頃な概説書となっている。 クラゲに関するコラムも昭和天皇がクラゲ飼育に貢献したときの話や, クラゲ研究者に女性が多いなどのほくそ笑むような内容で, 味わい深い。飼育解説の部分はややお手軽感が否めないが, 今度機会があれば挑戦したい。 http://www.readingplus.jp/entry/4416613547/42464001

「図解雑学 文字コード (図解雑学シリーズ)」

加藤 弘一/ ナツメ社/ 1404円/ (2002/07/01) ■ 読了(2014/11/25) / 評価:3.5 / 初版が2002年と古く, 最近の情報は網羅していないのが残念であるが, 日本語の近現代史を文字からなぞった本として, 書いてあることは充実して濃い。本書は文字コードの雑学本として読まれるが, 国体として, そして諸言語を国際的に位置づける取り組みの, 歴史の足跡をたどる本としても読まれ得る。近年ではコンピュータの改良によって文字問題は解決したかに思えるが, 未だ解決していないこと, そして文字を扱うことに横たわる問題にも目を向けている本として, 密度の濃い内容となっている。インド, アラビア語の辺りは特に濃密である。 http://www.readingplus.jp/entry/481633243X/42464001

「軍需物資から見た戦国合戦 (新書y)」

盛本 昌広/ 洋泉社/ 842円/ (2008/05/01) ■ 読了(2014/11/15) / 評価:2.0 / 日本の戦国時代における軍資, 特に木材の調達について述べる。

本旨は, 冒頭の「戦国大名が資材の供給源を確保すると同時に、過度な森林の伐採を抑制する政策を取っていたことを述べる。その一方で、合戦の場で行われた森林伐採という自然環境の破壊に対して、人々がいかなる対応をして、森林を守ったかを具体的事例で紹介する。また、「はやし」や植林という行為で、森林の再生や保全が図られていたことを明らかにする」と書かれている通りである。

木材は竹について述べられているところが多く, 栗やほかの堅木の有用性についても述べられている。戦国大名の木材軍資調達の手段と, 所領の土地からどのように調達したか, また木材を確保するための掟などについても述べる。武将は織田信長, 豊臣秀吉, 武田氏, 北条氏など有名な武将が多い。

後半は炭焼きと鍛冶の関係, また山守, 植林の話などが中心となる。剥山の文献上の推移なども話にあるが, 全体としてもボリューム不足の感があり, 読み応えに欠けるのが残念だった。 http://www.readingplus.jp/entry/4862482724/42464001

生物兵器化学兵器―種類・威力・防御法 (中公新書)」

井上 尚英/ 中央公論新社/ 864円/ (2003/12/01) ■ 読了(2014/11/11) / 評価:2.5 / 近代戦争で使われている代表的な化学兵器生物兵器について概説した本。化学兵器生物兵器についてそれぞれ総論 - 各論と分けて, 各病の特徴, 症状例, 対処法について述べている。コラムに, 生物兵器が実際に人類に与えた例についてやや詳しく書いている。新書であるため内容は薄いが, 概説を知るにはよいか。

以前に大学の講義でテロリズムについて学んだことがあり, その方面での知識が読解の助けとなった。日本における劇場型テロ, 個人テロが世界に与えた影響については本末に述べられている。言わば, 日本におけるテロは宗教団体, 政治団体(特に日本においては左翼組織だが)が担っており, そのためにかれらが独自に入手製造した生物・化学兵器がテロとして用いられることが多い。アメリカの9.11事件に先立つ数年前には既に, 日本でオウム真理教団によるサリン散布事件が起きており, これを踏まえてアメリカで法整備への着手が進んだと言われる(本書内容)。

実際の例をみるとアメリカでも郵便物送付による炭疽菌テロが行われ, ソ連時代のロシヤで, 同じく工場から作業員のミスによって炭疽菌がばら撒かれるなどの被害にはあっているが, 実例としてはまだ少なく, 戦争による生物被害ほど大きい ものではない。 が, 今後日本で, 或いは各国各地で犯罪者集団によるテロ行為が起きないわけではない。日本ではサリン事件による影響で「化学兵器禁止法」や「サリン特別法」が法制化されたというが, 昨今の交通機関等における警備体制をみるに有事の不安は拭いされないと考えられる。

まだ一つ, 気になるところがある。ボツリヌス菌使用の兵器がイラン, イラク, シリア, 北朝鮮などで開発されていると書いているが, 現状ではどうなっているのか。連日, 北のニュースといえば核兵器への懸念と拉致被害者, または金正恩周辺の話題ばかりであるが, 生物兵器が日本で使用される可能性は現状ないわけではなかろう。デング熱ごときで騒いでいるこの国で, 大いに心配である。

オウム事件も去ることながら, 731部隊についても仄めかしている箇所がある。この部隊のことはよく知らないが, 気になるのでいずれ読んでみたい。
http://www.readingplus.jp/entry/4121017269/42464001

「自動改札のひみつ (交通ブックス)」

椎橋 章夫/ 交通研究協会/ 1620円/ (2005/03/01) ■ 読了(2014/11/05) / 評価:2.5 / 自動改札機について書かれているのだが, 券売機や切符についても書いている。専門的な内容を平易に, 一般の読者にもわかりやすく説明していて, 別に鉄道に詳しくない僕でも理解出来るものなので良い。ICカードについても説明している。

  • 自動改札機 関西の方が自動改札機の導入が早かった。NRZ-1方式とFM方式とがあり, 不正乗車問題を解決するなどの方面から, 各社が恣意的に運用していた方式を旧NRZ-1方式からFM方式に転換し, 一本化することが求められrた。不正乗車問題は鉄道イメージとも結びつくので, 近年でも問題視されているこことがらである。対策はいくつか考えられる。物理方面では, 自動改札機のドアをどうするかということがある。欧米では全面的に不正乗車を阻止するという考え方があって, ハードドア方式を使っているところがある。ただ, 電車内で乗務員が点検し, 余分に払わせる方法を取ることで不正乗車を予防することにもなっているようで, これは日本でも採用されている。日本の場合, 不正乗車は定額の三倍の料金を払わせることをJRの利用規程としていて, 自動改札機では改札通過などの時間を切符に記録することで不正乗車を阻止している。

  • サイバネ規格 近距離(100kmまでの)切符ではエドモンソン券で, 別に定期券サイズのものがあり, これをサイバネ規格という。2つの規格を共通で使っているのは, そうすることが全体的にコストダウンだからであるらしく, いまだに2つのサイズが併用して用いられている。この規格が出た当初は某国会議員から不満の声が出たなどというが, いまはあまり聞かれない。切符の裏が黒色のものが自動改札機で利用可能なものだが, これは黒色がもっとも磁気を保有するためで, 昔は茶色だったという。

SuicaなどのICカードが出始めた当初の本なので, いま問題となっているIC規格や交通電子マネーの共通化, 一本化についてはまったく触れていない。が, JR各社が採用してきた方式を統一のものとすることは, 協議に時間が掛かり過ぎること, IC専用の自動改札機に手を加えないといけないこと(費用が掛かり過ぎること), Suicaには専用のサーバがあるらしく, ICカードで用いるバックグラウンドの技術運用をどうするか, など問題が山積しているように感じる。 おもしろいのは, 香港では2000年にICチップを埋め込んだ腕時計型の端末が限定で出たということで, いまiWatchやサムソンほか各社が似たような腕時計型端末を出しているがどうなるのか。混雑することは目に見えているし, 改竄されやすくコストもリスクもかかる端末をJRがゆるすか, と思うのだけれど, ICカードが費用低減に貢献するのだとしたら, そもそもカード媒体で出す必要はないのだと思う。 http://www.readingplus.jp/entry/4425761324/42464001


あかうしのライブラリー: http://www.readingplus.jp/user/42464001 (Reading+ (リーディングプラス) http://www.readingplus.jp/ )

生物兵器化学兵器―種類・威力・防御法 (中公新書)」

読了に追加しました

著者: 井上 尚英, (2003/12/01)

近代戦争で使われている代表的な化学兵器生物兵器について概説した本。化学兵器生物兵器についてそれぞれ総論 - 各論と分けて, 各病の特徴, 症状例, 対処法について述べている。コラムに, 生物兵器が実際に人類に与えた例についてやや詳しく書いている。新書であるため内容は薄いが, 概説を知るにはよいか。

以前に大学の講義でテロリズムについて学んだことがあり, その方面での知識が読解の助けとなった。日本における劇場型テロ, 個人テロが世界に与えた影響については本末に述べられている。言わば, 日本におけるテロは宗教団体, 政治団体(特に日本においては左翼組織だが)が担っており, そのためにかれらが独自に入手製造した生物・化学兵器がテロとして用いられることが多い。アメリカの9.11事件に先立つ数年前には既に, 日本でオウム真理教団によるサリン散布事件が起きており, これを踏まえてアメリカで法整備への着手が進んだと言われる(本書内容)。

実際の例をみるとアメリカでも郵便物送付による炭疽菌テロが行われ, ソ連時代のロシヤで, 同じく工場から作業員のミスによって炭疽菌がばら撒かれるなどの被害にはあっているが, 実例としてはまだ少なく, 戦争による生物被害ほど大きい

ものではない。 が, 今後日本で, 或いは各国各地で犯罪者集団によるテロ行為が起きないわけではない。日本ではサリン事件による影響で「化学兵器禁止法」や「サリン特別法」が法制化されたというが, 昨今の交通機関等における警備体制をみるに有事の不安は拭いされないと考えられる。

まだ一つ, 気になるところがある。ボツリヌス菌使用の兵器がイラン, イラク, シリア, 北朝鮮などで開発されていると書いているが, 現状ではどうなっているのか。連日, 北のニュースといえば核兵器への懸念と拉致被害者, または金正恩周辺の話題ばかりであるが, 生物兵器が日本で使用される可能性は現状ないわけではなかろう。デング熱ごときで騒いでいるこの国で, 大いに心配である。

オウム事件も去ることながら, 731部隊についても仄めかしている箇所がある。この部隊のことはよく知らないが, 気になるのでいずれ読んでみたい。

カテゴリ: 新書 / 戦争 ( )

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